見まごう邪馬台国

◇全然、良い

 最近、よく使われる「全然、良い」「全然、大丈夫」等の使い方に違和感を持つ人は少なくないでしょう。国語辞典では「迚も~ない」と同様、打ち消しや否定を伴って使われるとされるので、「全然」は否定を伴うべき副詞と云うのが言葉の規範と云う意識があります。但し、広辞苑「全然」項 〔名〕全くその通りである様。全てに亘る様。〔副〕全ての点で、すっかり。打消の言い方や否定的意味の語を伴い、全く、まるで。俗な用法で「全然、同感で す」等と肯定的にも使われる。尚、研究者の間では、この規範意識は国語史上の迷信とされます。その理由として、明治から昭和初期迄、「全然」は否定にも肯 定にも用いられ、日本語の誤用を扱った書籍等では、「全然+肯定」を定番の間違いとして揚げられます。それに就いて、以下の如き国語学界の発表もありま す。

 【日本語に関して知識の深い当時の研究者等の論文や記事中、「全然」がどの様に使用されているか実態を調査、採集した「全然」の用例を分類すると、全 590例中、6割の354例が肯定表現を伴い、その約4分の1の85例が否定的意味やマイナス評価を含まない使い方となっていました。尚、昭和10年代の 専門3誌における「全然」の使用例は下記の通り。

  ○否定を伴う例 計 232
   (1)形容詞「ない」 (2)助動詞「ない」「ず(ん)」 (3)動詞「なくなる」「なくす」
  ○肯定を伴う例 計354
   (4)否定の意の接頭語として使われる漢字を含む語  (5)2つ以上の事物の差異を表す語
   (6)否定的な意味の語  (7)マイナスの価値評価を表す語
   (8)否定的意味・マイナス評価でない語 85例
  ○判断が難しい例 4例

 当時から、否定を伴うという言語規範があったとすれば、多くの研究者が学術誌で規範に反するような表現を使うとは考えられません。また、昭和10年代後 半になると、植民地への日本語普及という当時の国家的重要課題を念頭に置いた「標準語」「正しい日本語」をめぐる議論が盛んに行われるようになりました が、3誌には「全然」の規範意識に関して言及したものは無かったばかりか、「全然+肯定」の使用が散見されました。尚、著名な国語学・言語学者金田一京助の「前者は無限の個別性から成り、後者は全然、普遍性からなる」と云う文章も含まれています。】
 
 私見で、この言葉につかわれる漢字の意味を「全く然り」とすれば、本来、その状態や状況が十分で在る事を示唆し、強調する言葉で語義的に否定を伴わなけ ればならないとする理由はないと考えます。未だに信じられている理由は、或る時期、国語学界の指導の下、言語の規範や語法として教育したからでしょう。特に、そうした時代に教育を受けた年輩の方々は、その感覚が強いと思われます。尚、上記、「肯定を伴う例」として、以下の如き例文が考えられますが、それに対する書き換え文を提示します。

  (4)全然、不足です。→ 全然、足りないです。
  (5)全然、狭いです。→ 全然、広くないです。
  (6)全然、嫌いです。→ 全然、好みではないです。
  (7)全然、古いです。→ 全然、新しくないです。
  (8)全然、大丈夫です。→ 全然、問題ないです。

 (4)(5)(6)(7)(8)の何らかの基準に照らすと同等でないと云う否定的なニュアンスとして書き換えられます。590例の内、二者の差異、マイ ナス評価や否定的な語も金田一京助氏の文章と同様に、文脈として前者と後者を比較すると云う文体で使われると思われます。以下、次回とします。

高知大学で開催された日本語学会。国立国語研究所の新野直哉准教授をリーダーとす る研究班、橋本行洋花園大教授、梅林博人相模女子大教授、島田泰子二松学舎大教授等が、言語の規範意識と使用実態―副詞「全然」の迷信をめぐってと云う テーマの発表を行いました。最近、「全然」が正しく使われていないといった趣旨の記事が、昭和28~29(1953~54)年にかけて、学術誌「言語生 活」(筑摩書房)に集中的に見られるので、否定を伴うという規範意識が昭和20年代後半に急速に広まったとします。しかし、発生・浸透の経緯については先 行文献では解明されておらず、先行研究が注目しなかった戦前の昭和10年代(1935~44)の資料に当たり、「全然」の使用実態を調べる事で、当時から 規範意識があったのかを考察した。
 
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